【妄想SS】最終サーバーダウン10分延長の謎に迫る
スレ立てしたし1つぐらい投稿するよー
わたしの冒険じゃつまらないから かっこいい吉Pの話にしたよー
厨二ぱわーフルスロットルで くさいセリフも平然と言ってのけるよー
2012年12月31日。新宿。
深夜にもかかわらず、スクエアエニクス社の開発室には多数の社員が詰めていた。
吉田はもう一度時間を確認した。11時47分。サーバーダウンまであと10分少々。
午前0時00分をもって現行版FF14はサービスを停止する。
吉田はデスクのタバコとライターを掴むと立ち上がった。
「ちょっと一服してくる」
周りの開発員に声をかけ、部屋をでる。
全ては順調で、もはや特別指示を必要とすることもない。
あとはただ、静かにサーバー停止の時刻を迎えるだけのことだ。
ファイナルファンタジー14は2009年6月。世界最大級のゲーム関連見本市、
E3にて電撃的に発表された。スクエアエニクス社の人気シリーズ、
ファイナルファンタジーの名を冠する新たなオンラインゲームということで、
ファンは驚きと大きな期待をもって歓迎し、サービス開始の日を指折り数えて待った。
そして2010年9月末日。FF14サービス開始。
しかし、それは暗く厳しい日々への船出となってしまった。
プレイ環境の要求の高さ。短かすぎた調整期間。
テスト期間中に指摘されたにも関わらず、放置されてきた諸問題。
これらを内包したまま強行発売された事への反発。
ゲーム内容のお粗末具合を指摘され、ブランドは泥にまみれた。
信用の失墜は会社の屋台骨を揺るがしかねない状況にまで陥る。
ここに至り、スクエアエニクスは新チームの発足を決意。
社内の総力を結集した新チームのリーダーに若きエース・吉田直樹を
起用したのだった。
そして2011年10月。吉田率いる新チームは「新生エオルゼア構想」を発表する。
現行サービスを途切れることなく続けた上で、並行して新クライアントを開発。
サーバーなどの機器類の増強から、グラフィックエンジン、UI、
更にはmapやストーリーに至るまで全てを一新する、という前代未聞の
大変革を敢行するというのだ。
それを見たファンの反応も様々だった。
手放しで歓迎する者。出来るもんかと言う者。今更遅いという者。
最後にもう一度だけ信じてみようと願う者。
ある者は去り、ある者は戻ってくる日が来ることを淡く期待しつつ休止し、
ある者はゲームの激変をライブで体感するために残った。
吉田はそれを見つめていた。去る者には心の中で頭を下げ。
休止する者にはいつか戻る場所の確保を約束し、続けてくれる者には
最大限の努力を誓った。
そして更に1年の月日が流れる。
2012年12月31日24時00分。まもなく現行FF14サーバーは役目を終え停止する。
それは、吉田がファンと交わした「ヤクソク」へ向けて、更なる一歩を
踏み出す瞬間でもあった。
休憩室に滑り込むと、そこには数人の先客がいた。
どの顔にも、また一つの節目を迎えることが出来た、という安堵の色が濃い。
それも当然だ。新チーム発足以来、ひたすら寝る間も惜しみ走り続ける日々。
FF14開発チームにかかる緊張と重圧は並み大抵のものではなかった。
全てを壊すと決めたのが2年前。それ以来、壊すことを前提に作り続けた。
それももうあとわずか。
あと十数分で、不自由なサーバーや根幹システムから開放される。
サーバーガー、などと揶揄され、しかし言い返す言葉もなく、
ぶつける先のない怒りを抱え込み、言い訳を噛み殺して飲み込む日々ともおさらばだ。
新生クライアントでは存分にユーザーの期待に応えられるだろう。
『ローンチに失敗すれば終わり』が定説のMMO業界だが、これまで
溜め込んだアイデアとプランを形にさえ出来れば、勝機は必ずあるはずだ。
「いよいよっすね」
その場にいたコミュニティレップの一人が声をかけてきた。
フォーラムではモルボルの愛称で知られる男。
ライブレターでは、いつもアシスタントを勤めてくれる縁の下の力持ち的存在だ。
海外支部を含め、彼らコミュニティレップの貢献度は計り知れないものがある。
「ああ。いよいよだな。」
吉田はうなずいた。
「0時と共にサーバー停止。同時に、すぐさまベータテスト情報開示だ。
きっとフォーラムも盛り上がるぞ。」
「でしょうね。休み明けが大変だ。」
モルボルが穏やかな笑みを浮かべ、吉田もつられて笑った。
「コーヒーっすか?」
「いや、こっち」
差し出された紙コップを断り、タバコに火をつける。
「吸いすぎると、また死んだ時の心配されますよ?」
そう言われて、思わずむせた。
吉田はユーザーとのコミュニケーションの一環として、
フォーラムへのメッセージ投稿や、それ以外にも年に数回、
プロデューサーライブレターと呼んでいる情報発信を、生放送で行ったりしている。
そこでユーザーに好きな物を質問されて、コーヒーとタバコと答えたことがある。
それ以来、吉田が死んだら新生14が完成しないと心配する人がいるらしい。
「ささやかな楽しみなんだがなぁ。」
謎の罪悪感に駆られタバコを揉み消し、紙コップを要求する。
「はは。両方、体に良くはなさそうですからね。心配してもらえるうちが
花ですから諦めて節制することです。」
「おまえは俺のかーちゃんか。」
できるだけ嫌そうな顔でそう言ってやる。
渡された紙コップにガラス製のサーバーから熱いコーヒーを注ぐ。
よくみるとペラペラの安紙コップは二枚重ねになっていた。
この男は日常においても、こうゆう気配りが自然と出来るから感心する。
「さて、じゃあボクはお先に。」
「なんだよ。折角だからβテスターフォーラムの運用とか打ち合わせしとこうぜ?」
「いやいや、それは又現行サーバー停止後にゆっくりと。ちょっと今しか
出来ない野暮用がありまして。」
それではお先に、と言い残してモルボルはそそくさと休憩室から出て行った。
「野暮用ねぇ。」
「モルボルさん、こないだのイベントで自キャラをモードゥナに置きっぱなし
なのが気になるらしくて」
別の男が笑いながら話しかけてきた。
やはりコミュニティレップの1人で、モッチーと呼ばれている。
そういえば俺のキャラどこだったっけな。
今夏にαテストのチェックが本格スタートして以来、個人的に現行サーバーで
遊ぶ機会はほとんどなかった。
曖昧な記憶をたどりながら、モッチーに話の続きを促す。
「ほう?」
「新生までしばらく間が空くじゃないっすか。その間、自分のキャラを
野ざらしにするのは忍びないって。宿屋のベッドでログアウトさせるらしいっす。」
「いや、でも新生で宿屋スタートする訳じゃないぜ?」
「気分的なもんでしょう。ボクもさっきまで似たようなことしてましたし。」
いわく、一番お気に入りの装備に着替えさせたとか、なんとか。
そんなもんかね。
その辺の感覚は自分にはいまいち良くわからない、と思いつつコーヒーに口をつける。
美味い。紙コップは安物でも、豆はケチらない社風らしい。結構なことだ。
「吉田さんは戻らないでいいんすか?」
「俺はもう特にやることないし。まぁ停止時刻には戻るけどな。」
それからは、周りの連中も加わり、話題が二転三転。
去年の初詣の話に新年恒例の四行詩から始まり、ライバルになりそうな
新作MMOの話題。果ては他社の社食のメニューの話まで。
時間はゆるゆると流れていった。
「吉田さん!?」
突然、派手な音と共に休憩室のドアが開いた。
騒音の主は、部屋中の視線を一斉に浴びて、一瞬ひるんだが、
すぐさま吉田に近寄ると耳元で囁いた。
「良かった。モルボルさんにここにいるって聞いて。
今すぐ開発室へ戻ってください。緊急事態です。」
嫌な予感が背筋をぞわりと撫でていった。
背中を冷や汗が流れていく感覚はこれまで幾度となく味わってきたが、
この土壇場でまだ何か起こるのか。
「何かあったのか?」
すっかり静まり返った休憩室に、開発員の声が不気味に響いた。
「サーバーがおちません。」
サーバーが落ちない?
目の前の開発員の言っている意味が理解できない。
吉田は思わず時計を確認した。
時刻は0時を回っている。
(しまった。気づかなかったな。)
それにしても落ちないとは、どうゆうことだ?
「立ち上がらない」ならともかく「停止できない」など、ついぞ聞いたことがない。
吉田が休憩室を飛び出すと、後から複数の足音が追いかけてきた。
(百聞は一見にしかずだ。兎に角、開発室へ。)
頭の中に浮かんでくる疑問と想定外のトラブルの数々を振り払い、階段を駆け上がる。
吉田が開発室にたどり着いた時点で、部屋には出てきた時の
2倍近い社員がつめかけていた。
複数のディスプレイの前で必死にキーボードを叩くスタッフ。
それを取り巻く男たちもまたディスプレイを凝視している。
その中の1つには、ゲーム内で最後のプレイを楽しむユーザー達の姿もあった。
『あけおめ!』
『延長ありがとう!』
『運営グッジョブ!』
次々とシャウトでログウィジェットが埋まっていく。
確かにサーバーダウンがされていない。
「どうなってんだ?」
その場に橋本の姿を見つけて近寄る。
スクエアエニクス社のCTOにしてFF14のテクニカルディレクター。
新チームの頭脳と心臓を兼任するかのような男だ。
「他人の二倍働く」と公言してはばからないのは自信と自戒の現れなのだろう。
理知的な見た目と裏腹に、熱いハートを隠そうとしないのが面白い。
吉田の描いた新生FF14の絵図面を完成させるために、絶対不可欠な存在だった。
腕組みしながら、じっとディスプレイを見つめていた橋本がおもむろに口を開いた。
「予定通り所定の作業を行ったがサーバーは停止しなかった。
作業を繰り返すと同時に、考えられる対処を全て行ってみたが結果はご覧の通りだ。」
橋本は体をくるりと吉田の方に向き直して、
「わけがわからん。」
そう断言する。
橋本がそう言うのだから、作業自体に手落ちはなかったのだろう。
ということはイレギュラー的なトラブルか。
だがしかし、運営時間が予定外に少々延びはするが致命的なトラブルには至らずに済みそうだ。
この時はまだ吉田はそう思っていたのだが...
「わかった。幸いユーザーは延長をサービスだと思ってくれている。
まだ時間はあるから、もう一度落ち着いて見直しをしてみてくれ。」
そうスタッフたちに呼びかけながら、思いつきで一言付け加えた。
「いざとなりゃ、俺がコンセント蹴り飛ばすさ。」
スタッフから笑いが漏れ、ほんの少し部屋の空気の温度が上がった。
しかし、その笑いが乾かぬうちに次の異変が開発室を襲う。
突如、部屋の明かりが消えた。
ディスプレイの光だけが人々の青白い顔を浮かび上がらせる。
次の瞬間、スクエアエニクス本社を激しい横揺れが見舞い、
床に投げ出された吉田の視界は暗転した。
つづく
次回予告
魔都新宿を襲った時空震。開発室は次元の狭間に飛ばされ孤立する。
一体何者の仕業なのか。そして忍び寄る魔の手。
「侵食率15%!20%!!だめです止まりません!!!」
「止めろ!ぶっ壊しちまえ!!」
みたいなのお送りするよー